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富山地方裁判所 昭和46年(む)84号 決定

被疑者 現田徳二郎

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する公職選挙法違反被疑事件につき、昭和四六年四月一四日富山地方裁判所裁判官八重沢総治がなした勾留請求却下の裁判に対し、検察官鈴木義男から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

一、検察官の本件準抗告申立の趣旨および理由は、記録に編綴してある「準抗告及び裁判の執行停止申立書」「準抗告および執行停止各申立補充書」および「準抗告申立補充書」に記載のとおりであるのでこれを引用する。

二、一件記録によると、被疑者が本件公職選挙法違反の罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、犯行の態様等を考え併せると、被疑者には罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる。

三、ところで、本件において検察官より裁判官に被疑者の勾留を請求したのは、四月一四日午後三時一五分であつたが、検察官が司法警察員から被疑者を受け取つたときから起算すると、二四時間を四五分経過した同日午後五時二五分頃になつて身柄が裁判所に到着したものであることが記録によつて明らかであるけれども、捜査機関としては、身柄拘束の制限時間内に勾留請求をしなければならぬことは刑訴法二〇五条に規定するところであり、その趣旨は勾留請求と同時もしくはそれと接着した時間内に勾留尋問のできる態勢にしなければならないものと解される。しかして身柄の到着が右請求時より多少遅れることがあつても、それが特に捜査機関の怠慢あるいは余罪捜査のため身柄を拘束していたなど特別の事情なき限り、やむを得ないものと考えるのが相当であるところ、本件についてみるに、被疑者の身柄を拘束していた上市警察署と裁判所との地理的な距離関係に、併せて当日同署には一連の公職選挙法違反事件で被疑者の勾留を請求する事件が四件あり、事案に照らし、被疑者相互の通謀を防止する観点から上市警察署は三台の自動車を被疑者の護送用に配備し、本件被疑者を除く三名の被疑者について先ず当日の午前中に裁判所に身柄を護送したこと、右三名の被疑者の各勾留尋問中最初のそれが終了したのが同日午後三時三〇分頃になつてしまつたこと、それから直ちに、護送車を上市警察署に戻して同署から本件被疑者を護送することとしたのであるが、同車が裁判所に到着したのが同日午後五時二五分頃になつてしまつたことがそれぞれ一件記録によつて認められる。

以上の事情を考えると、本件被疑者の身柄が裁判所に到着するのが遅れたことにつきやむを得ない事情があつたものと考えるのが相当であり、この点を考慮することなく検察官の勾留請求を却下した原裁判は失当であつて、本件準抗告は理由があるので刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

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